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『外国語を身につけるための日本語レッスン』三森ゆりか

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日本語は発言内容の根拠を重視しない。

英語に比べると、日本語(日本人)は提示された命題に対する根拠/論拠へのこだわりが淡白である。著者は日本のあるホテルの「タオルの説明カード」に書かれた日英の文章内容を比較することで、“日本語/日本人的思考の特徴”を解説している。


【日本語】

当ホテルをご利用いただき誠にありがとうございます。少しでも自然環境を保護するため、次のことにご協力をお願い申し上げます。

●取替えご希望のタオルは、ご使用後浴槽の中に入れておいてください。

●取替えずに再度ご利用いただけるタオルはタオルラックの上かタオル掛けに掛けておいてください。

【英語】

Dear Guests.

Can you imagine how many tons of towels are unnecesarily washed every day in all the hotels over the world and the extraordinary amount of washing powder needed which thereby pollutes our water?

kindly consider:
Towels thrown the bath-tub or shower stand means:
"Please exchange."

"Towels replaced on the towel rail means"
"I'll use it again."

―For the sake of our environment―


(ホテルには韓国語と中国語の説明カードもあり、それらも英語を訳した内容とほぼ同じだったという。日本語の説明だけが特異だったわけである。)


著者はこの説明カードにおける日本語と英語の違いに注目する。
日本語のカードには、「少しでも自然環境を保護するため」としか書かれていないのに、英語(および、中国語、韓国語)のカードには、「あなたは想像できますか。世界中のホテルで毎日何トンものタオルが不必要に洗濯されています。そして大量の洗濯石鹸が必要となり、それによって私たちの水が汚染されています。」と、タオルと「環境汚染」との因果関係が具体的に説明されている。
日本人客は「少しでも自然環境を保護するため」との説明だけで納得して、それ以上を求めてこないとホテル側は高をくくり、一方で、日本以外の外国人客は具体的な説明がないかぎり納得しないと考えた結果が、このカードの説明内容の相違となっているのではないかと分析している。

              ******

「福島原発事故は収束した」「放射性物質の拡散はコントロールされている」「安全が確認されたから再稼働する」「使用済み核燃料は再処理せずともゴミとして処理できる」といった、無責任な虚言・放言が公になされても、そのことが決して発言者の社会的信頼を脅かすに至らない日本の言論空間を見ていると、確かに日本語(日本人)は、根拠/論拠の説明がなくても、なんとなく漠然と納得して(あるいは思考停止して)結論を受け入れてしまう非論理的傾向があると思わざるをえない。

一方、英語は構文の中に“because”が組み込まれていて、いったん何かを主張すれば、論証なしでは話しが終わらない仕組みになっている。英米人が知的とか論理的かというよりも、英語という言語のもつ“思考の型”が自動的に論拠を求める思考法を彼らに要求するのではないか。彼らにとって論証のない命題は論理的かどうかより感覚的に気持ち悪く感じるのだ(と思う)。タコの入っていないたこ焼きを買ったようなもので、「なんじゃーこりゃあ!たこ焼きのくせにタコが入っとらんじゃないかー」といった反応になるのだ(と思う)。

# by tsuigei | 2014-08-07 12:08 |