韓国旅客船「セウォル号」の安全のコスト

韓国旅客船「セウォル号」沈没事故はいろいろと考えさせられる海難事故だった。大きく報道されたのでご存知だと思うがこれまで(4月23日)の報道をまとめてみた。

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4月23日の時点で、476人の乗客乗員のうち、死者121人・行方不明者181人という大惨事となっている。事故発生から7日が経過しており、船内に閉じ込められた乗客の生存の望みも薄れてきている。
検察・警察の合同捜査本部はセウォル号の運航会社の幹部や関係業者らの事情聴取を続けており、セウォル号の船長と事故発生時に操船していた三等航海士、操舵手の三人はすでに逮捕されている。
事故の規模の大きさに加え、乗客に船室で待機するよう指示を出しておきながら、乗客を置き去りにして船長や乗員らが我先に逃げ出したことや、経験の浅い23歳の三等航海士に操舵を任せていたこと、申告を偽った違法な過積載が事故原因と関連している可能性が高いこと、建造後20年が経つ船の安全点検が手抜きだったこと、さらに政府当局の初動対応がずさんだったことなどが重なったため、韓国国民の激しい怒りが巻き起こっている。
以上がこれまでの報道記事の簡単なまとめである。

責任を放棄して逃げ出した船長・乗員の卑劣な行為は論外であり、彼らに世論の怒りが集中するのは当然である。だが船長らに重い量刑を課して溜飲を下げることで満足してはなるまい。重要なのは事故原因の究明と今後の再発防止策であろう。
実はこの船長は一年限りの契約船長で、本来の船長が休暇中だったための代役だった。船長と共に逃げ出した他の乗員たちの多くも短期雇用の非正規社員であり、運行会社は人件費を抑えるため安全性軽視の運営をしてきたのではないかと見られている。

日本でもJALのキャビンアテンダントの非正規雇用化と空の安全性との関連が議論されたことは記憶に新しい。
顧客の安全よりも株主と投資家への配当が優先され、経営者が四半期先の短期利益に振り回される新自由主義的経営が広まってきていることが今回の事故原因の背景にあるのかもしれない。無責任な船長らの個人的な責任追求で一件落着させず、事故原因の社会的背景まで深く掘り下げる必要があるだろう。

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追記:5月4日。東京新聞は続報を次のように伝えている。

「韓国客船、救命いかだは使用不能 発覚恐れ、待機指示か」
2014年5月4日 20時17分 東京新聞

【ソウル共同】韓国の旅客船セウォル号沈没事故で、甲板に設置されていた40以上の救命いかだのほぼ全てが使用不能で、乗員が事故前からそのことを認識していた疑いが強まっている。
船員らは沈没直前、船内放送で乗客に待機するよう指示し、犠牲者が拡大した。乗客が脱出を図ればいかだの欠陥が発覚するため、あえて待機を命じた可能性があり、捜査当局は逮捕したイ・ジュンソク船長(68)らを追及している。
事故では4日、新たに12遺体が収容され、これまでの死者は248人、行方不明者は54人になった。
甲板には少なくとも42のカプセルに入った救命いかだが備えられていた。

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追記2 5月5日
「過積載隠すため重し減らす、韓国 沈没船、安全点検なし」
2014年5月5日 23時12分 東京新聞

【ソウル共同】韓国南西部、珍島沖で沈没した旅客船セウォル号が、過積載を隠すため、船のバランスを保つ重しとしてタンクに入れる海水「バラスト水」を安全基準の4分の1強しか積まずに航行していたことが、韓国政府の合同捜査本部の調べで分かった。韓国メディアが5日報じた。
船は基準の数倍の過積載をしており、船体が沈み過ぎることを避けるため、バラスト水を大幅に減らしたという。このため重心が上がり、転覆しやすい危険な状態にあったとみられる。
また、乗員は、船舶の安全点検を行わないまま、全ての項目に「良好」と記載した点検報告書を仁川港の運航管理室に提出していた。

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言葉を失う無責任さである。ここまでくると犯罪と言っても過言ではないだろう。

追記03 5月10日
沈没前の指示要請、操舵室が無視 船長らに殺人罪も検討
2014年5月10日 13時42分 東京新聞

【ソウル共同】韓国の旅客船セウォル号沈没事故で、客室乗務員が沈没直前に無線で「乗客をどうすればいいのか」と操舵室に指示をあおいだのに、操舵室にいた乗員から無視されていたことが10日までの合同捜査本部の調べで分かった。操舵手らが供述したという。
また、捜査関係者は業務上過失致死容疑などで逮捕したイ・ジュンソク船長(68)らを殺人罪で起訴することを「念頭に置いている」と話した。
沈没直前に客室乗務員は乗客の退避が必要だと感じ、繰り返し操舵室に指示を求めていたとみられる。操舵手は客室乗務員の声が無線機から聞こえていたが何の措置も取られなかったと供述した。

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もはや「重過失」では収まらず、犯罪であるという認識に傾いているのだろう。韓国世論もこれを支持することだろう。

追記
5月14日
沈没1カ月、安全軽視社会に警鐘 韓国、ずさんな運航、救助に批判
2014年5月14日 19時40分 東京新聞

【ソウル共同】韓国・珍島沖の旅客船セウォル号沈没事故から16日で1カ月となる。304人の死者・行方不明者を出した大惨事は、韓国社会の「安全軽視の風潮」に警鐘を鳴らし、不手際が目立った危機対応で朴槿恵政権は批判にさらされている。
旅客船が過積載を繰り返していたことなど、利益優先で安全を度外視した運航の常態化が発覚。捜査本部は、船長ら船員15人を業務上過失致死などの容疑で逮捕したほか、運航会社代表や検査業者らを次々に逮捕し、徹底的に責任を追及している。
海洋水産省と海運業界の癒着が、ずさんな安全管理体制の温床との指摘も噴出した。
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by tsuigei | 2014-05-05 09:13 | ジャーナリズム

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