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映画「永遠の0」:新しい袋に詰められた古い酒

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観ないで批判するのもあれだから気が進まないけど観に行った。

映画は巧妙にアレンジされているが、昭和の時代に鶴田浩二がさんざん演じた「苦悩する特攻隊員物語」の亜流である。「貴様とオレとは同期の桜」物語であり、「後に残る妻子を気遣いながら戦死する男」の物語であり、「今日の日本の繁栄は戦争で闘ってくれた兵隊さんのおかげ」物語である。古い酒を新しい袋に入れなおしただけで、そこに注目に値する知見はない。


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戦闘シーンはハリウッド大作に負けない完成度の高いCGで迫力がある。現代の若者が祖父を回想する構成で、戦時と現代が交互に行き来する形になっているため、若者も年配者も世代を問わず感情移入ができる作りは巧みである(ただし、「マジソン郡の橋」の成功以降使い古された構成ではあるのだが)。また、これでもかと感動を押し付けてくる浪花節は鼻につくが、物語の伏線はひとつひとつ丁寧に回収されており、中学生でも理解できるわかりやすい(わかりやすすぎる)映画に仕上がっている。

浪花節と甘すぎる予定調和にうんざりさせられる場面が多いが、日本人は情動に訴えてくる浪花節に弱いから、人生経験が浅く歴史にうとい若者はこの映画のあざとい狙いに気づかず、非の打ち所のない人格者である主人公を巡る家族愛、悲劇的な人間ドラマ、反戦を訴える映画と映っても無理はない。さらに迫力のある戦闘スペクタクル・シーンが加わり、戦争アクションとしても見どころがあるのだから、ヒットするのもわからないではない。


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だが、この映画を反戦映画として認めることができないのは、「上部構造」が徹底的に欠けている(隠されている)からである。この映画には前線の兵隊しか登 場しない。戦争を始めた政治家も、作戦命令を発令した大将も、戦略を練った大本営もいっさい出てこない。これは何を意味しているのか。

福島原発事故に例えてみるとわかりやすいだろう。
この映画に登場するのは吉田所長と現場に残った“決死隊”だけなのである。危険な現場で命がけの作業を続ける彼らの姿に焦点を当てれば共感を覚えない観客はいない。彼らの献身的な行動に感動することだろう。
だがこの映画には、彼ら以外の、東電の最高責任者である勝俣恒久会長もマスコミも、原子力安全保安院、経産省、官房長官、総理大臣も登場せず、彼らは存在しないかのようにスクリーンからかき消されているのである。

オイオイ、それはないだろうが!

「永遠の0」は、札束の力で安全神話を捏造し、長年にわたって国民を騙してきた原子力ムラの存在を隠して、福島原発事故現場の吉田所長や“決死隊”の英雄的行為だけに焦点を当てて称賛するという構造をもった映画なのである。文科省がこの映画を推薦する理由がおおいに納得できるというものである。


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「戦争体験者がいなくなった時、次の戦争が準備される」―― まさにこの警句どおり、今の日本はそうした危険な時期にさしかかっている。戦争への道を舗装している安倍晋三や石破茂、田母神俊雄、百田尚樹らはみな戦後生まれであり、戦争を体験したことのない人間である。戦争体験のないこいつら(興奮してこいつらになっちゃった)によって次の戦争が始められようとしているのである。

そして、もし戦争になっても、こいつらは、福島原発の“吉田所長”や“決死隊”が行ったような、最前線の現場で危険に身を晒し、勇敢で献身的な行為を実践することは決してないのである。安全地帯の住人たちが“進軍ラッパ”を勇ましく鳴らして若者の愛国心を煽っており、その“進軍ラッパ”に敏感に反応する若者が増えてきている。危険な政治状況にあると思わざるをえない。

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冷や飯を温めなおしたような愛国心発揚映画が若者から称賛され、大ヒットを記録し、映画の原作者が、街宣車で元航空幕僚長の選挙応援演説をし、その極右候補者が60万票獲得の予想外の大健闘を果たした。こうした昨今の状況に戦慄せずにはいられない。


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by tsuigei | 2014-02-14 19:18 | 政治

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